Kerri Chandlerが、いよいよ新作Trionisphereを3/26にリリースする。

Kerri Chandlerが、6年振りにアルバム"Trionisphere"を
King Street Soundsより3月26日にリリース。

ここにケリ・チャンドラーが建てた家がある。重厚にして堅固、驚くほど緻密に組み
立てられた、とても完成度の高い家である。90年代以降のハウス・ミュージックは、
すべてこの家の構造を模倣するところからスタートし、その幾つかの要素を様々な方
向性へと発展させ進化を遂げてきた。しかし、いや、ゆえに、いまだにケリ・チャン
ドラーの家を凌ぐ家は建てられていない。音楽的に更に成熟し、ディジタル世代のソ
ウルを極めたケリ・チャンドラーが、腑甲斐無い状況を見るに見かねて、遂に新たな
家を建立した。その家の名は『Trionisphere』。2003年、ようやくケリ・チャンドラー
によって21世紀のハウス・ミュージックのスタンダードが制定される。





アルバム『Trionisphere』のコンセプト

 アルバム『Trionisphere』のコンセプトは、音楽を構成する三点の要素、つまりリ
ズムとソウルとテクスチュアの高度な次元での理想的な融合の試みだという。そして、
実にKerri Chandlerらしいブラックネスに満ちたソウルの幾つものヴァリエイション
が見事に表現されている点において、その試みはアルバム『Trionisphere』の全編に
渡って成功していると言い切ってしまってもよいだろう。様々な表情を見せながら自
在に刻まれるユニークなリズムや、革新的かつ斬新なアイディアを盛り込みつつも見
事にディジタル世代のソウルへと昇華されたユニークなサウンド・テクスチュアなど、
いずれも最早Kerri Chandlerならではのハイ・レヴェルな音であるとしか言い様がな
い。そうした意味において、これは実にディープな作品だといえる。それも唯一無二
のディープさである。そして、深みの分かる大人向けの一枚とも言えてしまうかも知
れない。特に“Faithful”での突出した深みや渋みには、どう考えても子供向けの内
容とは言い難いものがあるから。一切の冗談抜きで。

Kerri Chandler/Trionisphere 解説

 アフロ〜ラテン〜ジャズから、デトロイティッシュな実験的トラック、そしてディー
プでソウルフルな歌物まで。最先端のディジタル・テクノロジーを駆使するKerri
Chandlerによって編み出された、自由自在に刻まれる独特の重いキック・ドラムとベー
スのアンサンブルの手法に即して、常に斬新で革新的なアイディアが、見事なまでの
音楽的完成度で表現されてゆく。97年の『Kaoz On King Street』から実に6年ぶりと
なる、待望のKerri Chandlerのオリジナル・ニュー・アルバム。それが、この
『Trionisphere』である。

 ニュー・ジャージー・スタイルのディープ・ハウスのオリジナル・クリエイターで
あり、その唯一無比ともいえる太く重い強烈にボトム・ヘヴィな独特な作風で広く知
られるKerri Chandler。地元の人気DJであった父親のもとで、早くも9才でDJプレイ
のノウハウを一通りマスターするとともに、アンダーグラウンド・ダンス・サウンド
にも精通し、そのシーンにも自然に親しんでいたKerri Chandlerは、すでに13才の頃
にはイースト・オレンジにあったRally Record Clubにおいてプロフェッショナル
なDJとしてのデビューを果たしていた。その後、ジャージー・ハウス隆盛の気運が高
まってゆくとともに、スタジオ・ワークに対しても興味を持っていたKerri Chandler
は、そのDJプレイを通じて培った独自の音楽性を活かしたアンダーグラウンド・ダン
ス・ミュージックの制作にも力を注ぎ始める。早くも91年には、Teule“Drink On Me”
やThree Generations“Super Lover”、“Get It Off”といったヒット作を次々とプ
ロデュースし、ニュー・ジャージー出身の若き天才サウンド・クリエイター、そして
シーンに革命をもたらした異端児として、まだ弱冠20才ながらも大きな注目を集める
ことになる。

その後も、自身のレーベルであるMadhouseからのディープな傑作“A
Basement, A Red Light And A Feeling”を筆頭に、Arnold Jarvis“Inspiration”、
Kamar“In Every Way”、Grampa“She's Crazy”、Tears of Velva“The Way I Feel”
、“Mystery Love”、Dreamer G“I Got That Feeling”、Susan Clark“Deeper”、
Carolyn Harding“Pick It Up”、Gate-Ah“The Shelter”、Bassmental“It's The
Music”、“Just Wanna Be With You”、そして“Atmosphere”、“Stratosphere”、
“Ionosphere”、“Hemisphere”、“Trionisphere”という一連のシリーズ作品、ま
た“Raw Grooves”や“Digital Soul”といった連作など、数多くのアンダーグラウ
ンド・ハウス・クラシックスを世に送りだし、その常に絶妙にストリート・センスを
盛り込んだ圧倒的な音楽的才能に裏打ちされたサウンド・プロダクションで、唯一無
二なKerri Chandlerならではの高度な音の地位を確立させていった。そして、その更
にアンダーグラウンド・ダンス・ミュージックの真髄へ迫ろうとする強い意志は、
Joe Claussell、Jerome Sydenham、Yahya Mcdougald、Dennis Ferrerといったプロデ
ューサーたちとの意欲的なコラボレートへと発展し、そこからも果敢に挑んだ共同作
業の成果としての数々の歴史的名作を生み出してきた。また、リミキサーとして
もTen City、Femi Kuti、Martha Wash、Robin S.、Shawn Christopher、Kristine W.、
Sandy B.、Big Muff、Black Box、Soul Deluxeといった多くのアーティストたちの作
品をを手がけ、そのすべてを大ヒットさせるなど桁違いの実力を発揮している。03
年2月に東芝EMIより発表されるアルバム『Saulsoul Best Remixes』においては、
First Choiceの名曲“Dr Love”のリミックスを担当した。DJとしても、ヨーロッパ
全域を中心に定期的なツアーを敢行する傍らで、The Shelter、Body & Soul、Filter
14、Centro Flyといった数々のNYの有名クラブにゲストDJとして迎えられ、独特のニ
ュー・ジャージー版ガラージ・スタイルの骨太で重厚なグルーヴを紡ぎだすプレイを
披露している。

 ソウルフルなゴスペル・テイストの色濃いトラディショナルなニュー・ジャージー・
サウンドを基盤に据えつつ、ジャズ〜アフロ〜ラテン〜ブラジリアンといった幅広い
音楽スタイルを吸収し、最新のテクノロジーを駆使して、常に革新的方向へと突き進
んでゆくアイディアを、洗練され完成されたサウンドの中で見事に具現化させてゆ
くKerri Chandler。その一過性の流行やコマーシャリズムに決して安易に屈すること
のない、常にアンダーグラウンドの本質的部分に根差した頑固一徹な精神性と、ユニー
クでオリジナリティや実験性に満ちあふれたサウンドは、過去10年以上に及ぶ期間の
ハウス・ミュージック・シーンへの強烈にして痛烈な影響だけにとどまらず、UKのス
ピード・ガラージや2ステップを生んだアンダーグラウンド・シーンに対しても多大
な影響を与えたといわれている。


  では、Kaoz 6:23ことKerri Chandlerの、約6年ぶりとなる待望のアルバム
『Trionisphere』の、気になる中味を軽く覗いてみよう。まずは、常套句のごとく飛
び出すマッドな声サンプルをのせてゴツゴツとした岩石のようなトラックが転がって
ゆく“Tribe Of The Night”で、溌溂とスタート。極めてシンプルな音構成が、徹底
してマッドな究極のトラック職人ぶりを、ひときわ際立たせる。よりスウィンギンか
つグルーヴィなトラックで、颯爽と疾走してゆくのが“What Is 6:23”。独特のラテ
ン・ジャズを消化したようなサウンドの構成と、地を這うようなベースラインがナイ
スだ。つづいて、丸太のようなキックがゴンゴンと打ちつけられる、ディープなアフ
ロ・ジャズ・トラック“Something Deeper”。管楽器に呼応するような形で、トラッ
ク自体が朗々と歌い上げている様が、実にマッドだが強烈に渋くもある。で、さらに
アフロ度を上昇させて繰り広げられるのが、これまたトラック自体がファンクを自由
気侭に謳歌している“Coro”。焼けつくアフリカの乾いた大地のような饐えた匂いが
漂いまくる。

お次は、優雅なスリングスめいたものが飛び交い、一転してメランコリー
すら感覚させる、スピーディでストレートな亜流ジャズの“I Never Knew Her”。見
かけは流麗なようでいながら、しかしトラックそのものは鬼のように重い。よりミニ
マルに、よりジャズな方向へと突進してゆき、ムーディに揺れるDee Dee Braveのヴォ
ーカルが、そこに更に拍車をかけまくる“It's You”。叩きつけるような怒濤のスウィ
ングが、ただただ圧巻。またしても空気は一転し、クラシカルな雰囲気を持つジャジ
イなディスコの心温まるグルーヴが展開される“On My Way”。本人も、その高揚し
きった気分を直球気味のヴォーカルで控え目かつ存分に表現している。そんなジャズ
とディスコの折衷路線を、真っ向からKaoz 6:23的なジャージー・ハウスのスタイル
で押し進めたのが“Too Much”。シンプルなようでいて、トゥー・マッチなくらいに
緻密に作り込まれ練り込まれた骨太で重厚なトラックが聴き所だ。そして、ディーヴァ
の異名を持つTreasa Fennieをフィーチュアした、得意のディジタル・ソウル路線の
コテコテな歌物ハウス“Heal My Heart”。きっちりとヴォーカルを活かしきる丁寧
きわまりない仕事に、熟練の職人めいた渋さが光る。あらゆる意味で大人なヴォーカ
ル・ハウス。

しかし、なお一層の大人ぶりを感じさせてくれるのが、とんでもなくディープな超佳曲
の“Faithful”。トラックを構成する音のパーツの加工ぶりや音響処理から、タンバリン
の音色に鍵盤からじわりと滲みだすコード、そして霊感すら漂わせるヴォーカル・
パフォーマンスに、そこで歌い込まれるリリックの内容と、どこをとっても凄まじく
ディープ。少々危険なくらいに深くて激渋な、あらゆる意味において大人なハウス・
ミュージックである。お馴染みのChristopher McCrayをメイン・ヴォーカルに据えた
“The Answer”もまた、ジャズとゴスペルの要素が程よく混ざりあった、ねっとりと
したソウルフルな味わいのある好曲である。ラストは、ジャズを通過してフュージョン
の領域にまで軽やかな足取りで踏み込んだような、爽快感に満ちあふれる“Behold The Sun”
。暑苦しくない程度に歌いあげるKT Brooksのヴォーカルを軸に、差し込む陽光とともに周辺
に渦巻くエモーションも徐々に高まってゆく。ディジタル世代のソウルを表現するトラック
もまた、出色の出来だ。そんなトラックに導かれ、じわじわと盛り上がり、遂に感極まった
ところで、何とも言えぬ感慨めいた余韻を残して、アルバム『Trionisphere』は幕引きの時を迎える。

(注)残念ながら、現時点では詳細は未確認であるのだが、アルバム『Trionisphere』
には上記の全12曲にプラスする形で、さらに出来たてホヤホヤの新曲が一曲か二曲、
追加収録される予定らしい。約6年ぶりのアルバムということで、Kaoz 6:23も気合い
を入れて大盤振る舞い、ということか。結構、サーヴィス精神旺盛なんだよね、
Kerriちゃんて。


Kerri Chandler/Trionisphere KCD-233 3/26 on sale

[情報提供:2/20/2003 Kiyo Tominaga King street sounds]

 

 


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